一丁目芸術散歩(2) 泉屋博古館より川口直宜
2010年08月17日
一丁目芸術散歩
川口直宜(泉屋博古館分館館長)
今夏は、文字通りの酷暑です。お盆を過ぎてもなお残暑が引き続き、いささか暑さ負けといえるのが現状でしょうか。
このような時には、実践すべき納涼の体験ツア-がお奨めといえます。寺山修司は、「書を捨てて町に出よう」と呼びかけましたが、「書は捨てなくてよい」のであって、町の美術館に行こうと檄を飛ばしたいのが僕の考えです。
その理由の第一、美術館は冷房が効いています。すなわち、涼しい快適な時間を過ごすことが出来ます。閉館時間までいられますから、汗が引いて少々肌寒く感じるかもしれません。
第二に好みの展覧会を選べます。この時期、多くの美術館は、夏季休暇のためのよい企画を立てるのが普通です。好きな画家、作品、よいテ-マに出会える機会が増えるわけでもあります。
海外企画展もありますので、なにも海外旅行をしなくても鑑賞出来るとは、これ以上グッドなことはありません。え、誰ですか、外国風景、旅情、食事を味わいつつ、美術館巡りを楽しむのはもっとよいという人は!う~ん、それもそうですが、、、、。でも、日本の美術館にもレストラン併設が増えてきていますから、ぜひ一度お試しあれ。
第三に琴線に触れない作品の場合には、そこを早く離れてじっくり味わえる作品に移ればよいのです。コンサ-ト会場の場合、途中で席を立つのは遠慮しなければなりませんが、美術作品は自由移動が出来ます。
第四には、名画には、独特の馨りがあります。筆者は、音楽が得意ではありませんので、音楽に馨りがあるのか、否かを述べる資格はありません。それは、「響き」を楽しむものなのでしょうか。
名画の馨りは、実際に感じ取る馨りではなく、名画の品格が醸し出す「馨り」を嗅ぐことになります。これは、名画との対話を心深く交わすことで初めて可能となります。名画は官能的でもあるのです。ぜひとも体得してください。
第五に中国絵画、日本絵画には、「画中に遊ぶ」という至上の楽しみがあります。特に山水画にいえることですが、鑑賞者のあなたが画中人物となって「画中臥遊」して、山岳、溪谷、瀑布の自然美を愛でることが頭の中で想像し得るのです。それを「画中に遊ぶ」と呼んでいます。
さて、以上の理由は、美術館人の「我田引水」といわれかねませんが、六本木一丁目の泉屋博古館分館では、現在、「近代日本画にみる東西画壇―東京・京都・大阪の画家たち―」展を開催中です。
これは、明治時代以降、近代日本画壇を三分した東京・京都・大阪の画家たちの地域的個性―東京は粋、京都は雅、大阪は婀娜―を比較するとともに、画家自身の個性の相違を見比べてみようとする企画です。
文人画、山水画、風景画、花鳥画、美人画、故実画、静物画など実に多彩な絵画世界で構成されています。
夏らしい瀑布図の富岡鉄斎「掃蕩俗塵図」、平福百穂「夏景山水」、高島北海「蜀道青橋駅瀑布図」、田能村直入「松閣高隠」の鑑賞は、まさに「画中に遊ぶ」がお楽しみいただけます。直入「松閣高隠」では、松籟の響きもお聞き取りください。
また、平福百穂「堅田の一休」では、一休和尚の座禅中の姿が見られますが、想像による座禅を行ない、「心頭を滅却すれば火もまた涼し」(禅僧・快川の故実)となり、この酷暑も避けられるかもしれません。ただ、本当にそうなるかの責任は負えませんが。

木島桜谷「秋草図」 大正12年頃(ca.1923)※後期展示
お時間がございましたらご来観いただきたいと思いますが、日本画ですので保存のため展示替えがあります。
上記作品の展示期間は、ハロ-ダイヤル:03(5777)8600でお確かめくださいますよう、お願いいたします。

【泉屋博古館 分館】